« 豊田市美術館 | Main | 光の魔術師 インゴ・マウラー展@東京オペラシティアートギャラリー »

傷口

「人を殺したいと思ったこと、ないの?」

彼は、「ディズニーランドにいったことないの?」とか、そんな程度にありふれて意外なことを聞くように、私に尋ねた。

そう
彼から見たら、私は幸せな人間だったのかもしれない。

どこか頼りなげで、ほっておけないような男(ひと)だった。
暴力とは対局にある人。
何を言っても怒らないような、とらえどころなく、漂っているような人だった。

人を殺したいなんて、思うことがあるとさえ思っていなかった。
私からみても弱々しい彼が、それをさも意外そうに言うことが、どうにも受けとめられなかった。

だけど
彼は確かに
足を引きずらなくては歩けなくって
それはどうにもできない病気のせいで

いつもひょうひょうと笑っているとらえどころのない彼とは別に、そういうものを抱え込んだ彼がいて当然だったのかもしれない。
ただ、
彼のひょうひょうとした感じが「普通」すぎて、私はそれ以上考えることしなかったんだ。

私は自分を不幸だと思ったことはない。
だけど
不幸だと言われそうな歴史を重ねているとは思ってきた。
それが「不幸」だと烙印をおされたくなくて、言わなかったにすぎない。
認めたくなかったのだ。
言えなかったのだ。

そういう自分の「意固地さ」は、自分を追いつめるよりも、支えてきたのだと、今は思う。
それがかなり痛々しい、後ろ向きなものだとしても、前に進ませてくれたものには違いない。
そして、自分を殺そうと思ったことがあったとしても、人を殺したいと思い詰めることなく生きてこられたことは、きっと、間違いなく、感謝すべきことなんだ。

その日は、仕事帰り、彼の車で1時間ちょっとのドライブだった。

「危ないって思うことないの?」

と尋ねる彼に、

「ぜんぜん」

って応えてた。

だって、襲われても彼には腕力でも勝てそうだったし、そんなことをしそうな人だと思ったこともなかったから。

「くやしいな」

と言った彼のことをだけど、
彼の深い暗闇を、
その、まだ湿り気のある傷口を感じで以来、
なんだか気になって仕方がなくなったことは、
私しか知らないことだ。

私もいつか、傷口を見せられる誰かに出会えたら、語ることがあるのかもしれない。
わかってくれそうな闇を持つ誰かに惹きつけられて、涙を流すのかもしれない。

|

« 豊田市美術館 | Main | 光の魔術師 インゴ・マウラー展@東京オペラシティアートギャラリー »

Comments

心に残る古傷を癒すなら
温かい手でふさぐよりも
冷たい指先で触れて欲しい
鋭い痛みの一瞬間だけ
傷ついた理由を忘れられるから
-----------
おひたしブリ
なんか雨すごいですね
そちらは大丈夫ですか
こんなに降られると季節感もなにもないですなあ
眺める時間があれば別だけど

最近ノートPCからザウルスに変わりました
だんだんコソコソ感が増してきたような...
機動性が増したわりにすれ違いが多いです

降るよりも降られる方が多いかな-そたろ

Posted by: そたろ | Jul 19, 2006 at 12:55 PM

素太郎さん

生きてて何より!(^_^;)
コソコソ感が増してる・・・その内携帯にも手が伸びるかも?

雨は,一番ひどいときに離れていたので私は実感ないんですが,なんだか梅雨の終わりに集中攻撃!みたいな勢いですよね。被害がこれ以上出ないことを祈ってます。

Posted by: neco | Jul 19, 2006 at 09:07 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55003/11002341

Listed below are links to weblogs that reference 傷口:

« 豊田市美術館 | Main | 光の魔術師 インゴ・マウラー展@東京オペラシティアートギャラリー »