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記憶の中から響く音

 「ペキッ」

右足の下で、聞き慣れない音が響いた。
小さな
でも硬質に空気をふるわせるような音が。

 ◇◇◇

飛行機が降り立ったのは、予定時刻を30分もすぎた頃だった。
今日は荷物も受けとらなきゃいけないし、急ぐことはない。
人の列が流れ出すまで、座ったまま小説を読み続けた。

列に入ってからも読むのはやめなかった。
ゲートに降り立ってからも。
一方向に進む人々の流れに乗って、
ページに目を落としながらゆるゆると歩みを進める。
こんなことは久しぶり。

 「そういえば、子どもの頃もこうして
  本を読みながら歩いていたっけ」

小学校の帰り道、よくそうしていたことを思い出した。
そしてあのことも、思い出してしまった。

 ◇◇◇

両脇に田圃や畑が広がる、のんびりした通学路。
一人で帰るときはよくそうしていたように、
その日も、友達から借りた漫画を読みながら歩いていた。

 「ペキッ」

その音が聞こえたのは、家まであともう少しという所だった。

 「きっと小枝でもふんだんだろう」

そのまま歩き続けた私の足を、何かが止めた。

 「本当は、何をふんだんだろう」

その音は、今まで聞いたどの音とも違うような気がした。
小枝にしては硬質すぎる、そう思った。

 「確かめに戻ろうか」

少し怖い気もした。
でも、どうしても気になった。

そしてそれは、
命のはじける音だったのだ。

 ◇◇◇

雨の日はいつも、さけて歩くのが大変なくらい、
雨蛙が車にひかれていた。
そんなところだった。

でも、私が起こしてしまったその音は、
ぞくっとするような感触とともに
胸の奥の方に突き刺さった。

 「ペキッ」

そう、何年たっても思い出せるくらいに。
蛙のいないコンクリートの空港で、ずいぶんと久しぶりに
あの音が響いた。

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Comments

なんて余韻の残る表現なんでしょう・・・。印象的な内容とともに、しばらく頭から離れませんでした。

Posted by: Shig | May 28, 2005 at 10:40 AM

Shigさん

コメントありがとうございます。
ついさっきのことでも思い出せないことがあるのに、不思議なくらい些細なことを思い出したり。
年なのかも、と思いながら、なんだか、忘れちゃいけないことなのかも、と思ったり。大人になると感じないようになること、感じないようにする必要があることって、確かにあるんですけどね。それを違うと思う自分に、ときどき出会います。

Posted by: neco | May 29, 2005 at 12:40 AM

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